高い離職率が人手不足の原因の一つとして指摘されている美容業界。
施設数は増え続ける一方、新卒者や転職者は足りておらず、経営危機に陥っている美容室も少なくありません。
スタッフの定着率向上のためには3つの「S」が重要であり、これを満たすことが「働き続けたい」と思われるサロンづくりにつながります。
この記事では、離職の5つの原因と、定着率アップにつながる3つの「S」について解説します。
1年以内に30%、3年以内では50%が離職
厚生労働省が公開する「新規学卒者の離職状況」によると、2021(令和3)3月卒業の美容師を含む生活関連サービス業の離職率は、1年以内が30.8%、2年以内は49.4%です。
データのある2006(平成18)年3月卒業者の離職状況から数値の変化はなく、美容業界の離職率の高さは改善されていません。
参照元:厚生労働省 「新規学卒者の離職状況」
離職率を上げる5つの原因
美容室の高い離職率は、下記の5つが原因とされています。
- 待遇面
- 労働環境
- 人間関係
- モチベーションの低下
- 将来の不安
それぞれの原因についての詳細は、以下のとおりです。
待遇面
求人活動に影響することから待遇面の改善は進んでいるものの、問題の解決には至っていません。
美容師を含む生活関連サービス業は、統計にある16業種中14番目の平均月収となっています。
ボーナスや退職金、社会保険などの制度が整っていない美容室も多く、待遇面に不満を抱いて離職するケースがあります。
参照元:厚生労働省 「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
労働環境
サロンワークが忙しくなると昼食を取れないことも珍しくありません。
営業後には練習やミーティングがあります。
このような労働環境が、離職の原因の一つとなっています。
人間関係
スタイリストとアシスタントは技術指導があることから上下関係がハッキリしやすく、スタイリスト間でも売上によって立場の差が顕著になりがちです。
サロンワークではスタッフ間でのコミュニケーションは避けられないため、人間関係が悪化すると精神的な負担が増し、離職に追い込まれるケースも少なくありません。
モチベーションの低下
アシスタント期で離職する原因になりやすいのが、モチベーションの低下です。
教育カリキュラムが整っていないとスタイリストに昇格するまでのロードマップがイメージできず、モチベーションの低下につながります。
将来の不安
スタイリストに昇格しても上の役職に就けなければ、将来に不安を抱き、転職や独立を選択する可能性が高くなるでしょう。
また、出産や育児との両立の難しさから美容業界を離れる女性美容師も多く、環境の整備が求められています。
3つの「S」で定着率アップを図る
スタッフの定着率アップを図る上で重要になるのが、下記の3つの「S」です。
- 将来性
- ストレスフリー
- 承認欲求
それぞれについて、以下に解説します。
将来をイメージできる環境づくり
アシスタント期とスタイリストになってから、どちらの時期にも明るい将来をイメージできるように環境を整備しましょう。
スタイリストになるまでのロードマップが描けるように、アシスタント期には効率的に技術を修得できる教育カリキュラムを用意することが大切です。
スタイリスト以降は売上を伸ばし、収入が増え、生活が安定する環境をつくることで、将来の不安を払拭できます。
ストレスのない人間関係
厳しい上下関係や指導は人間関係の悪化につながります。
サロンオーナーや経営陣は「技術を教える」立場であることからスタッフとの上下関係がハッキリしがちで、ややもするとパワハラと判断されることも少なくありません。
すでに一般企業ではパワハラやモラハラの研修、指導内容の見直しが進められています。
ストレスのない人間関係の構築に向けた意識改革のため、美容業界でも取り組む必要があるでしょう。
承認欲求を満たす
他者から認められたい願望を指す「承認欲求」ですが、人によって願望は異なるため満たすことは容易ではありません。
「店長やディレクターに就きたい」や「自身の顧客で予約を埋めたい」、「訪問美容サービスに取り組み社会に貢献したい」など、十人十色の願望があるでしょう。
一律の制度では対応できないため、スタッフとコミュニケーションを図り、願望や欲求を汲み取る必要があります。
多様化する求人活動に対応することも重要
離職率の改善は重要ですが0%にすることは不可能なので、同時進行で求人活動にも力を入れなければいけません。
求職活動はオンライン媒体が主戦場になっており、多様性も増しています。
美容専門求人サイトや総合求人サイト、派遣サイト、スポットバイトなど、選択肢は多岐にわたります。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを把握し、求める人材に適した媒体を求人活動に取り入れる必要があるでしょう。
時代の変化に合わせた意識改革が定着率アップにつながる
「今まではこれで通用した」といった考えでは離職率の改善は図れないため、意識を改め、時代の変化に合わせることが重要です。
「将来性」「ストレスフリー」「承認欲求」の3つの「S」は離職率を抑えられるだけではなく、モチベーションアップやパフォーマンス向上の効果も期待できます。
美容室経営の成長・維持に向け、離職率の原因を解消しつつ、3つの「S」を意識した改革に取り組んでみてはいかがでしょうか。
ライター:ティム(美容師歴20年、現在はフリーランス)
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